第4話
2009年 12月 18日
「国王が死にかけてる!?」
遥か上空をマッハ0.3~0.5で飛行し、顔全体に風を浴びながら、べレンはバックパックのフレイムジェットの轟音に負けないよう大きな声で話した。
「えぇ!!今入った情報よ!!」
ハイナは超小型携帯コンピュータ『SPC』をベルトの後ろに取り付けたケースにしまった。
「本堂のG.R.N管理室から緊急で入ったの。」
「確かにツラガはどんな任務か言わなかったからな。」
べレンは下の景色を確かめながら言った。
「まさか死にかけた国王を助けろって事か?」
「どうかしらね。見て、もうすぐファグラッチェ本土よ。」
下に広がるのは広大な草原と大きな湖だった。この高度だと、ファグラッチェの端から端まで見渡せているのではないだろうか。少し向こうに尖った城の先端が何本も見えた。おそらくファグラッチェの国王が住む城だろう。
「ここが私達の初任務の舞台よ!!」
ハイナは心躍らせている様子だ。しかしべレンは素直に喜べない。初めての任務だというのに仲間の1人との喧嘩が続いている。ソーラは2人と距離を置いて飛行していた。勤務初日だと言うのにチームから孤立していた。リーダーとして声をかけるべきか?などと考えていたらいつの間にかファグラッチェの国王が住む城に着いてしまった。
「門前に国王の息子ら、第1皇子、第2皇子が出向いてるわ。」
ハイナが城の門の前に降下しながらあごでしゃくった。そこには顔から下を真っ赤なマントでまとった皇子と衛兵らが数名べレン達を眺めていた。3人がそこに降り立つと、すぐさま衛兵がX線レーダーで3人が危険物を所持していないかなどを確認しだした。
「俺達はトーアだっ。」
べレンが呆れ顔で言った。
「トーアだろうと何だろうと規則は規則ですので。ハイ、終わりましたよ。」
べレンは不愉快そうだ。ソーラは黙って確認を受けていた。すかしやがって…。
「殿下、彼らが3代目トーアかと…。」
衛兵のリーダーと思われる男が皇子らの前に跪いて伝えた。片方の皇子がもう1人に何かを話している。すると1人が巨大な樫の扉の横にある普通の扉を通って中に入った。もう1人の皇子はべレン達に近づいてきた。
「待ちわびておりましたぞトーア殿。」
ハイナが腰から上を曲げて深々とお辞儀をしていたので、べレンとソーラは急いでそれを真似た。
「私は3代目世界トーア、ハイナと申します。」
「同じくべレン。」
「ソーラです。」
「我はファグラッチェ第1皇子『フーギ』なり。そなた達を呼んだ理由、既に存じ上げているであろうな?」
「はい、殿下。存じ上げております。殿下のお父上、国王様が…」
「ここでその話をするでないっ。民が聞いていたらどうする!!」
なんと。国民は自分達の国の王が死に掛けている事実を知らされていないのだ…。
「取りあえず中へ。」
皇子の合図で巨大な樫の扉が左右に開いた。3人ともバックパックを聖堂の格納庫に転送し、トーアサイズに造られたのだろうかと思うほど大きなピロティを横切り、一番目立つ一番大きな扉を通り、螺旋階段を上った。
「今時横開きの扉さ。なんでも歴代の国王が代々住み続けているそうで、1度も建て直された事がないそうだ。」
ソーラは皇子に聞こえないように鼻を鳴らした。
「皇子、」
「詳しい話は後で。まずは国王陛下の容態を診てやってくれ。」
「わかりました。」
ハイナは皇子のすぐ後ろからついて行った。その後ろからべレンとソーラが何も口を利かずについて行く。
「ところでハイナ君、3代目のリーダーはそなたなのかな?」
ハイナは気まずそうな顔をした。
「私がリーダーです、殿下。」
べレンが声を上げた。ソーラが眉間にシワを寄せた。皇子は立ち止まり、べレンの足の先から頭のてっぺんまでをまじまじと眺めた。そしてフンッと鼻息を鳴らし、国王の寝室への歩を進めた。べレンが何か言おうとしたが、ハイナによって制された。
「駄目よ。」
しばらく歩くと真っ赤な扉の前で皇子が立ち止まった。扉の真上の部分にはファグラッチェ国の紋章(赤い果物らしきもの)が描かれていた。
「ここが陛下の寝室だ。」
皇子が真っ赤な扉をそっと開いた。
「父上…」
「おうぇぇぇぇぇ」
「トーアが聞いて呆れるわ。」
フェリーの手すりにもたれて海に向かって嘔吐するコワックの背中をさすりながら、ギアが言った。
「おい、いい加減にしろコワック。」
ロックはコワックを急かした。他の乗客達が3人のトーアを囲んでいるのだ。
「見てー母ちゃん!!おっきぃ人らよー」
小さい子達が集まってきた。
「トーアさんだわ!!皆バッグにサインしてもらいなさい!!」
10人くらいの子供が一気に飛びかかってきて、バッグを差し出してきた。
「ちょ…ちょ痛っ。」
珍しくロックが戸惑っていたので、ギアは笑ってしまった。
「ぅおうぇぇぇぇぇぇぇ!!」
コワックは船酔いが激しいらしい。
「先が思いやられる…。」
主に預けていた私物を返してもらった。色々物色している内に、懐かしい物を見つけた。電子アルバムだ。ホログラムではなく、2次元の旧型のだ。
「忌まわしき過去だな…。」
第4話 完
by maxhorn
| 2009-12-18 17:01
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