暗黒大陸に近づくてその全貌が明らかになった。漆黒の断崖が巨大な壁になっていて、船じゃ容易に辿り着けなかっただろう。周りは黒い霧に囲まれ、上空数千メートルにいても若干霧が出ている。べレン達は上空で一時停止していた。
「準備はいいか?」
べレンがトーア達に聞く。
「細心の注意を払わなくては。何が待ち受けているのか、先は真っ暗だからな。」
ロックが言う。
「ほんま文字通りやで。」
ギアがニコッとしながら返す。
「俺とギアについてこい!ソーラは左、ハイナは右、コワックとロックは後方を見張りながらだ!いくぞ!」
べレンがギアを抱えながら先陣を切って霧の中に降下していく。4人もそれに続いた。
暗黒大陸
この言葉を知らない者はいない。
この惑星バイオニーの南半球に位置し、暗黒海を隔てて存在する大陸。大陸全域に暗黒病ウイルスと呼ばれる死の病原菌が蔓延しており、その感染力たるや、平均寿命2000歳の巨大なラヒ、ウォーキングウッドでさえも即座に空気感染するという。感染した生き物はきっかり7日で死に至る。治す方法はひとつ、大陸に生息している暗黒草を用いた薬を飲む事。もしくは暗黒大陸に生息するラヒ等の生物の身体構造を研究する事で、何か他に手段を得る事ができるかもしれない。
また暗黒病による被害は、初代世界トーアの時代の大流行が最後とされているが、その伝説は後世に語り継がれており、暗黒海及び暗黒大陸に近づく者はいない。もしいたとしても、生きて帰る事はないのだ。
心なしか、べレンは息苦しさを覚えた。おそらく・・・もう既に感染しているのかも。そう思い、皆に尋ねる。
「どうだみんな、何か変わったこととか、体に異変は?」
「息苦しいわ。」
ハイナが答える。どうやらみんなそうらしい。
「どこか着地点を見つけようぜ。」
ソーラが言う。
「あぁ、今探してる。」
辺りは暗黒海の夜ほど暗くはないが、黒い霧が出ているうえに木々や地面まで黒いときた。視界はとてつもなく悪い。
「どこが陸地でどこが森なんか、まったくわからへん。」
「川や海があるかもしれんしな。木々が無い事だって考えられる。」
ロックが返す。
「いい!このまま降りちまおう!」
コワックが提案するが、すぐにハイナが却下した。
「ばか言わないで!」
「ソーラ!大気の力で霧をどけられないか?」
べレンが言う。
「待てよ。」
ソーラが試みてみると、霧が薄くなってきた。
「その調子だ!」
大陸自体が真っ黒なので確証はないが、おそらく霧は完全に晴れたのだろう。
「よっしゃ!俺様にかかればこんな・・・なんだこりゃ・・・」
皆があっけにとられた。地面や木々が黒いのはあらかた予想がついていたが、そこらじゅうにマトランの死体、骨、マスクが無数に転がっている。全身黒ずんでるものもあれば、まだ元の色のまま腐っているだけのものもある。べレンは茫然としたままギアと共に着陸した。
「なんだ、こりゃ。」
「まるで地獄や。」
足の踏み場もない、と言っても過言ではないだろう。他の4人も後に続いて着陸した。
「これは・・・なに・・・」
ハイナが動揺を隠せない。
「ここに訪れた者達だろうな。なんとか陸に上がったものの、船は大破し、帰る術を無くした・・・そんなとこだろう。」
コワックが冷静に言う。
「それにしても様々な時代の亡骸が転がっているな。」
ロックの言うとおりだった。暗黒病に侵され、地面と区別ができないくらい黒く染まっているものと、まだ元の色がのこっているものとで、身につけているカバンなどの道具のデザインが違う。完全に黒く染まっているものは、おそらく大昔にここを訪れて死んでいったのだろう。
「まだ完全に黒く染まっていないのは、最近来たって事か?」
ソーラが聞く。
「一概にそうとは言えないが、その可能性は高い。見ろ、君の足元に転がってるまだ所々が黒くなって腐っているだけのやつ、リュックに生年月日が書いてあるが、割と最近だ。」
ロックに言われて足元のそれを見ると、確かに生年月日は約20年前だ。
「それにしてもこの数は異常だ。中には古い型の剣を所持した集団死体もある。何か歴史に裏がありそうだぞ。」
コワックが遠くの荒野を眺めながら言う。確かにそこには古代の軍隊と思われる死体が無数に転がっていた。
「えげつないわ。こんなとこで戦でもしようとしたんかいな。」
ギアが腕を組みながら言う。
「さあ、みんな。バックパックを背負るんだ。知っての通り時間がない。」
べレンが促すと、ギアが阿修羅ハンド、ロックがレッパクロー、コワックが白竜ソウルを背中に転送した。
「霧を晴らせるのはソーラだけだ。みんなで行動するぞ!」
「せやな。」
「俺だけが頼りってわけだ!」
ソーラの無駄口をみんな無視した。
「暗黒草の容姿はG.R.Nから受信したわ。」
ハイナが他の5人に暗黒草の画像を送信した。
「ほぉ・・・」
ロックはマスクの裏に映し出されたそれを眺めながら言う、
「6本の細長い葉・・・短めの茎・・・」
「どのくらいの量がせいそくしているのかは分からないわ。とにかくこの画像通りの草を見つけたらすぐに言うの!」
ハイナが声を荒げる。焦りを感じているのだろう。
「よし、ソーラは定期的に霧を晴らしてくれ!俺が自分の手に火を灯しながら先導する!」
6人は闇の中を歩みだす。それは彼らの運命そのものである。
その頃、トーア達より先に上陸していたローレライとカッチュは、黄色のマスクに黄色と黒のボディ、上半身が大柄なマトランで下半身が蜘蛛足3本、おまけに腹からクワガタのような顎が飛び出している男と対峙している。
「俺を誰だか忘れたとは言わせねーぞ。」
カッチュが言う。
「おんどりゃあ、その声は・・・」
男が返す。
「俺はどんな闇も見通す。だからここまで来れたんだぜ?もう分かったろ。」
カッチュがにやつきながら言う。
「・・・きゃきゃきゃきゃ。よぉ、久しぶりじゃあのぉ、相棒帰ってきとったんかぁ。」
男もにやつき始めた。ローレライはボーっとやり取りを眺めている。
「元気にしてたか、クレスト。」
「たった今元気になったわぁ。きゃきゃきゃきゃきゃきゃ!!!」
クレストが笑いながら言う。
「ははははははははは!!!」
カッチュとクレストの不気味な笑い声が、辺りにこだました。
第10話 完